東アジア選手権ですべきだったこと(1)

さて、巷はゼロックス杯とJ開幕に向けた話題で持ちきりだが、(地上波はやはり野球だろうが…)、一人静かに、東アジア杯ですべきだったこと今後の展望を書いていこうと思う。


その為に、まずオシムが倒れる以前の代表がどのような完成度を見せていたかを理解する必要があるだろう。

まず完成度だが、W杯グループリーグ突破を目指す為の90%以上は完成していたと私は感じている。
幹となるストロングポイントがそこにハッキリと存在していたからだ。


①「試合開始時の相手のフォーメーションに対応できる柔軟性」

選手を入れ替えずに、相手の攻撃陣を見て3バックにも4バックにも、2バックにもなれる。こちらの質を下げることなくだ。また相手の守備陣を見て、1トップにも、2トップにも、3トップにもなれる。こちらも質が下がらない。

常に相手より有利なフォーメーションを得ることが出来る柔軟性は、前半戦の戦いに安定感を与えた。相手がこれに対応する為には「走り合いに付き合う」か「5バック2ボランチのゾーンで耐え忍ぶ」他はない。後でもう1つの特性と共に書くが、日本に「走り合いで勝てる国」はそう多くは無い。特に欧州の国で日本より有利に走れる国は皆無に近いだろう。


②「10人+1人のサッカーと数的有利の確立」

オシムは「DHを1枚に出来るならそれに越したことは無い」と語っている。
確かに、英と福西など相成れない2DHは混乱を招くだけ、それならば一人で判断できる1DHが良いだろう。しかし、オシムは1ボランチはしていない。常に啓太と誰かを組ませる「2枚のDH」を選んでいる。

啓太の役割は分かりやすい。
豊富な運動量で、スペースを埋める、相手のコースを消す、更には闘莉王のような前線にあがる選手の代わりにSWに入る。本人が攻めあがることはまず無い。Jや世界でも一般的なダブルボランチやセンターハーフ的な役割ではなく、むしろアンカーとしての1DHに近い役割だ。

そう、「実」はオシムサッカーは1DHなのだ。
形上、常に2DHだが其々がフォーメーションでの役割を考えると1DHの10人で行うサッカーがベースにある。そして+1人。「数的有利を作り出すフリーマン(ポリバレント)」の選手を加えることで、「数的優位を確立させる」というオシムサッカーの真髄の1つが見えてくる。

その第一人者が「阿部勇樹」である。
阿部は何処でもできる選手と言われているし、それは多くの人がメディアや試合を通じて知っている。だが、何故、何処でも出来るかを導き出しているメディアは少ないと思われる。私は「阿部の存在はもう中田英を超えてるよ」と知人に話すことがある。苦笑いをされるが阿部の存在は英を超えている。

阿部の最高の武器はスタミナでもキックの精度でもない。
「空中戦の強さ」である。守備時においても攻撃時においても、ボールの競り合いにおいて抜群の強さを持っている。中澤のように身体が強いわけでもない、クラウチのように背が高いわけでもない。だが、抜群の反射神経とポジショニングで相手より先にボールに絡んでしまうヘディングの巧さを持っている。

それゆえに、阿部は中盤でのパス回しやカバーリングで活躍するのは勿論のこと、DFに混ざっても穴にならず、FWに混ざっても得点を奪いにいけるのである。阿部健在時にオシムサッカーは更なる高みを見せ付けた。


③「選手の距離と短所を長所へ」

さて、オシムが日本をイメージした際に人生の中で強烈に浮かび上がってくるもはなんだろう?最適なモデルがある。それこそがオシムの日本化のベースにあると私は思っている。

それは「零式艦上戦闘機」…通称「零戦(ゼロセン)」である。

小さいが小さい故に、小回りが利き、疲労知らずの高性能。
ようするに、運動能力が同じなら小さくて軽いほうが急旋回できる。スタミナが同じなら、小さくて軽いほうが、自身の身体の重さと言うデメリットが小さくて済むと言う事だ。物理の問題である。そしてそれの伸び幅は、白人や黒人、大陸のアジア人より、日本人がずっと有利だ。

長年、日本代表が苦労してきた他国との埋めきれない体格差。
それを消すことに初めて成功したのは、トルシエ元代表監督である。
彼が具現化した「前線からプレスをかけるコンパクトサッカー」と「フラットスリー」によって体をぶつけずにボールを奪うという「術」を日本代表は得た。デメリットを消すスベである。

ただ、トルシエのサッカーは4-2-3-1というフォーメーションに対し圧倒的に分が悪い弱点も見せてしまう。
極限までラインコントロールを試した日本代表は、それゆえに「ブレイク」という術も会得するが完全に体格差を埋めるところまでは至っていなかった。

オシムは、魔法を施し、デメリットをメリットに変えることに成功する。
数字の魔法である。対格差を埋めるために日本は、トライアングル、アイコンタクト、心眼、ゾーンプレスなど様々な術を得ていった。そして、より狭い間隔で、より早く、よりテクニカルにボールを回そうと切磋琢磨した。それが世界に通じる日本の型になると…。

オシムはここを根底からひっくり返す。
選手に狭い間隔を求めず、一定以上の距離を保って横に縦に広くピッチを使うことを求めた。
「プレッシャーを受けない場所で非凡な能力を発揮する日本人」達は、相手の圧力を避けてボールを受け、確かな技術で遠い味方にパスを通し続ける、確かな余裕を持って相手の薄いところを探し続け、チャンスを窺うという荒行に成功する。

更には、その間にラインを押し上げ、相手のカウンターを未然に防ぐと言う手立てまで打っている。

ボールを追いかける大きな相手選手。
追いつく前にボールは遠くの場所へ移動する、更に追いかける相手、徐々に彼らの体力は自らの身体の重さによって消耗していき、疲労感が戦意を奪ってゆく。何とか奪ってみたところで、ゴールは遠く、素早い零戦達の「数的優位」の網に掛かり、また追いかけなければいけなくなる。

小さいことは日本人の短所だった。
あえて再度言おう。オシムは短所を長所に変えた。


④「相手の強さによる使い分け」

オシムは4-2-3-1の3の両サイドを2タイプ+一人で使い分けた。
前に自分のコラムの中でドリブラーについて書いている部分があるが、オシムは通用する相手と通用しない相手で両SHのタイプを使い分けている。
分けてみよう。
A:大久保、水野、藤本、達也、寿人、三都主。
B:俊輔、遠藤、憲剛。
C:山岸。
除外:山瀬、羽生。(共にトップ下系な為)

スタメンや選手交代の際にこの采配が大きく効果を見せている。
総合力や対面で大きく上回っている場合、オシムはAのカテゴリーの選手を多用し積極的に勝負を仕掛けさせている。反面、総合力で下回っていると感じた場合、Bの選手を使い、ボールキープを優先させている。唯一Cの山岸だけは別だが…。

ベストイレブンに拘らず、相手を見て慎重に慎重を重ねる老獪さもオシムの魅力だ。

山岸について触れておこう。
彼は特殊である。運動量があり、守備力があり、身体が強く囮にもなれ、セットプレイ時の高さの1枠も担える。(基本:中澤vs1stDF、巻vs2ndDF、阿部vs3rdDF。それに足して山岸vs4thDFって感じ。キッカーは最も有利なところに放り込めば良い。)AやBのメンバーに比べ、決定力や突破力、展開力で劣るが、対応できる選手が足りなかった際などではめ込むことができる魅力的なピースである。


⑤「その他」

タクティクスについて書くのは①~④が大きいが、それ以外でも「世代交代」に成功し、「魅力的な練習」で集中力や理解度の強化を図っている。


以上、オシムの日本化は明確な形を見せていたと言える。

核となる選手も決まってきて、後は誰が出れなくなっても機能するように、「層の底上げ(五輪以下の合流やJで活躍する選手の代表への参加、理解度の浸透)」をするだけのはずであった。


長文、読んでくれてありがとう!
東アジア選手権ですべきだったこと(2)へ続く。
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by awi-syuwdow | 2008-03-02 15:17 | 日本代表  

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